大江戸ガーディアンズ
「——哥さん、其処までだ」
突然、鋭い声が飛んできた。
その方へ目を遣ると、明石稲荷の入り口に番傘を差した彦左が立っていた。
見世の使いで外に出たおすてだが、途中で雨に降られてなかなか帰ってこられないと気づいたお内儀が、彦左を迎えにやらせたのだ。
初見世が決まり、これからどんどん稼いでもらわねばならぬおすてに何かあらば、久喜萬字屋にとって大損だからだ。
大股でずんずんと軒先までやってきた彦左は、持ってきた番傘をおすてに差し出した。
「おすて、とっとと帰るぞ」
「彦左っ、違うんだべ、与太さは……」
番傘を受け取りながら、おすては必死で云いつのった。
「お内儀さんに告げ口されたくなきゃ、おめぇは黙ってな」
彦左は与太に向き直ると、氷のごとく凍てついた目でぎらりと睨んだ。
「……あっしは前にも云ったはずでやす。
約束は、きっちりと守ってもらわねぇといけねえ。
それに、おすてに何ぞあっちゃ、見世としてはあんたらから請け負った『仕事』にも出せねぇようになっちまいやすぜ」
髪結いの件での「囮」のことを云っているのだ。
見世の「用心棒」の一人でもある彦左には「護衛役」としてお内儀から知らされていた。
「——それでも、いいんでやすかい」
彦左が、ぐっ、と目に力を込めて与太を見た。