大江戸ガーディアンズ
松波 兵馬の命を受けて、与太は南町に加えて北町の「御用聞き」も請け負った。
ところが、今の与太は北町としての「出番」は皆無に等しい。
なぜなら、御公儀の威信をかけて何としても早急に「髪切り」を捕縛せねば、町家や百姓連中に示しがつかぬ、と南北の奉行所が互いに手を取り合って咎人を捕縛することになったためだ。
要するに——「御用聞き」なぞ通さずとも、互いの奉行所の与力や同心たちが直に遣り取りするようになったのだ。
とは云え、まだまだ双方其々が当たらねばならぬこともある。
「髪切り」がこれまでに襲ったのは、どう云うわけかすべて吉原の大籬の遊女たちばかりだ。
そして、それも残るは二つの見世だけとなった。
そのうち久喜萬字屋を南町奉行所が、残る中萬字屋を北町奉行所が受け持つことになり、此度双方が其々で、身を変装した隠密廻りの同心を見世に忍ばせることと相成った。
とならば——そろそろ互いの「出方」が気になる頃合いだ。
「……で、『南町』は久喜萬字屋へは如何ようになっておる」
もうすぐ中萬字屋の方へ潜む「北町」の島村は、やはり「南町」の進み具合に関心があるようだ。
「じきに隠密廻りの杉山様が、久喜萬字屋に入りなさる手筈でさ」
いきなり訪れた「出番」であるが、与太は如才なく応じた。
だが、しかし……
「久喜萬字屋には、おまえが見つけた『奉行所の息の掛かった奉公人』がおるのではあるまいか。
南町が久喜萬字屋の方を選んだのも……
おそらく、さような理由からであろうな」
与太の心の臓が跳ねた。
「い、いや……そのう……おいらは決して南町の方を『贔屓』したわけじゃ……」
思わず、じりじりと後退りする。
御武家様の逆鱗に触れ、人気のないかような処で「切り捨て御免」はそれこそ御免だ。