大江戸ガーディアンズ
島村はふっと口の端を緩めた。
切れ長の目にスッと鼻筋が通っていて、ちょっと薄めの唇。
さらに頭は粋な本多髷の島村は、なかなかの美丈夫であった。
「別に責めておるのではないゆえ、案ずるな。
おまえは北町より南町との付き合いが長いのだ。
ならば、至極当然のことではあるまいか」
特に腹を立てた様子もなく、淡々と告げた。
「まぁ……そのうちに北町を『贔屓』してくれるようになるのであれば、それで良い」
与太はそれを聞いて、ほっと一安心した。
闇夜にいきなり現れ、腰に差した太刀の柄に右手を掛けながら、左手の親指で刀の鍔をかちりと浮かせ、
『おまえ——「北町」の方の御用聞きもやってみぬか』
と云われたときは、どうなることかと思ったが……
——もしかしたら、思いの外「話せるお人」なのかもしんねぇなぁ……
生まれ育った与力の御家から同心の養家に入ったばかりとかで、まだまだ堅苦しい武家言葉ではあるが、それも早晩砕けていつの間にか町家の其れになろう。
すると、そのとき——
「し、島村の旦那っ……こんな処に……いなっすったか……っ」
与太も顔だけは見知っている北町の御用聞きの男が、息急き切って明石稲荷の内へ駆け込んできた。
「どうした、なにか遭ったのか」
すぐさま島村が問うと、男は息も整わぬうちに叫んだ。
「……へぇっ、それが……
昨夜……中萬字屋の妓が……
髪切りに……やられちまったって……」