大江戸ガーディアンズ
水茶屋・嘉木屋の最奥には「座敷」があった。
平生のお客が案内されるのは店に入ってすぐの小上がりだが、その奥に茶を支度するための竈の間と勘定場があり、さらにその奥には外からは決して見えぬよう畳敷きの八畳間が設えられていた。
「座敷」に通されるのは、決まって「御用向き」に関わる者たちだ。
といえども、御用聞きである岡っ引きや下っ引きなぞが立ち入れる処ではない。
表立って集まるには何かと怪しまれ勘繰られてしまう——なかなかに難しい立場を背負った面々で……
無論、町家界隈の者ではない。
おるいは主人夫婦より、今夜この「座敷」に集うことと相成った者たちの給仕を任された。
世田谷村の子だくさんの百姓家に生まれついたおるいは、かような人たちをたとえ本日一日限りであろうと目にできるとは、夢にも思っていなかった。
その昔、お忍びで店にやってきた御公儀のお偉方に見初められて嫁いでいったと云う、茶汲み娘の「笠森お仙」も、さような心持ちになったのであろうか……
——だけど、あたいにゃ与太がいるんだかんね。
そして、夜がやってきた。
今宵は望月から三日経った居待月が夜空に見える。
酒器を乗せた盆をしっかりと持ち、おるいは店の最奥にある「座敷」へと向かった。