大江戸ガーディアンズ

「誰も()も囮になりたいと申すが……
おなごの命である髪を、ばっさりとぶった斬られるやもしれぬのに——惜しゅうはねえのかよ」

多聞が苦笑したあと、盃の酒をくっと空ける。

「……和佐か」

佐久間にとっては、たった一人の姪である。
しかも、我が身は息子が一人ゆえ、幼き頃より「娘」のごとく見守ってきた。

「おなごに生まれはしたが、あれだけの手練(てだれ)だ。
あれも武家である以上、なにかしらの御役目を果たしたいのであろうよ」

「可愛い子が二人もおると云うのによ」

取り立てて反対することはなかった多聞であるが、やはり思う(ところ)はあったようだ。

「されども、一度、おのれの思うままにやらせてみろ。
存外、憑き物が落ちたかのごとく大人しゅうなるやもしれぬぞ」

佐久間はさように云うと、多聞の盃に酒を注いだ。


「あっ、伯父上、申し訳のうござる」

慌てて兵馬が伯父の盃に向かう。

「いや、構わぬ。おまえの父と違って酒はさほど好まぬのでな。
それよりも、御前様の酒を切らさないようにしろ」

すると、多聞が兵馬の手からひょいと銚子を取った。

「不粋なことぬかすな、呑みやがれ」

佐久間の盃に酒を注ぐ。


「まぁ……こうなりゃ、なんとしても南北の奉行所が力を合わせ、『囮』の身命を危うきに(さら)すことなく、()()とも『髪切り』なる(とが)人をとっ捕まえるしかねえわな」

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