大江戸ガーディアンズ
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与太は御武家に生まれついた面々であらねば、奥の座敷に立ち入れぬと知りつつも……
夕刻、鳶の仕事を終えると、普請場からこの水茶屋・嘉木屋まですっ飛んでやってきた。
そしてつい先刻、おるいが酒器を持って奥の間へ消えていくのを目の端で捉えていた。
「今夜はもう、仕事は終わっちまったんだろ」
お内儀が茶を携えて、与太のいる店先の小上がりまでやってきた。
「酒でも持ってこようか」
されども、与太は左右に首を振った。
「いや、遠慮しとくよ。おいらの仕事は鳶だけじゃねえからよ」
「は組」の方の仕事は、いつ何時お呼びが掛かるかしれやしないため、与太はなるたけ酒を呑むのを御法度にしている。
酔っ払って火事場に駆けつけるなんざ言語道断だし、そもそも火消しが千鳥足で火元の屋根に上がった日にゃ、命がいくつあっても足りやしない。
「——あのさ、与太」
平生は云うほどの口数でもないお内儀が、なぜか今宵はよく話しかけてくる。
「おまえさんさ……そろそろ身を固める気はないかい」
——身を、固める……
与太は御武家に生まれついた面々であらねば、奥の座敷に立ち入れぬと知りつつも……
夕刻、鳶の仕事を終えると、普請場からこの水茶屋・嘉木屋まですっ飛んでやってきた。
そしてつい先刻、おるいが酒器を持って奥の間へ消えていくのを目の端で捉えていた。
「今夜はもう、仕事は終わっちまったんだろ」
お内儀が茶を携えて、与太のいる店先の小上がりまでやってきた。
「酒でも持ってこようか」
されども、与太は左右に首を振った。
「いや、遠慮しとくよ。おいらの仕事は鳶だけじゃねえからよ」
「は組」の方の仕事は、いつ何時お呼びが掛かるかしれやしないため、与太はなるたけ酒を呑むのを御法度にしている。
酔っ払って火事場に駆けつけるなんざ言語道断だし、そもそも火消しが千鳥足で火元の屋根に上がった日にゃ、命がいくつあっても足りやしない。
「——あのさ、与太」
平生は云うほどの口数でもないお内儀が、なぜか今宵はよく話しかけてくる。
「おまえさんさ……そろそろ身を固める気はないかい」
——身を、固める……