大江戸ガーディアンズ

「あっ、与太さ、あんがとね」

おすて、と呼ばれたおなごは与太を見るなり、花が綻ぶようにほわっと笑って礼を云った。


与太はつい、と目を逸らした。

なにも云わず、抱えていた盥をさっさと物干し場まで持っていく。
そして、その盥を地面に下ろしたかと思ったら、中の洗い物を掴んで次々と干し始めた。


「……よ、与太さ、お()しなっせぇ。そりゃあ、おらぁ仕事だんべぇ」

おすては、びっくりして与太を見上げる。
まだ、あどけない年端もいかぬ少女の目だ。

それに、(くるわ)の女郎たちが遣う気取った物云いではなく、故郷(くに)方言(ことば)が抜けていない。


——おるいは、三月(みつき)もしねぇうちに、すっかり郷里(くに)の物云いが抜けちまったけどな。

大人びた面持(おもも)ちの十六のおるいより一つ歳下のおすては、まだまだ幼く見えるからかもしれない。


「気にしねぇでいいってことよ」

「だけんどぉ……」

おすての眉が済まなそうに「へ」の字になっている。

着古した木綿の小袖姿は垢抜けないが、その面立(おもだ)ちは悪くなかった。


それもそのはず……

今は下働きをやっているが、初潮が来れば——

吉原の大見世「久喜萬字屋」の女郎になるのだ。

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