大江戸ガーディアンズ

「——うちの母上であらば、義姉上の身の上を知っても案ずるには及ばぬと思いまする。
それよりも、家族の中で一人知らされぬ方が心を痛めそうでござりまするが……」

確かに姑の志鶴の心持ちならば、さようかもしれぬ。


「うちの姑なら……即刻、御家から叩き出されるでござろうな」

姑の千賀の顔を思い出したのか、和佐は大きく顔を(しか)めた。

「あ、いや、義姉上のことは御役目が絡んでおるゆえ、たとえ夫であろうと申すつもりはござらんから、ご安心くだされ」

慌てて云い繕う和佐に、美鶴は微かにふっと笑った。


「和佐殿も御役目のためとは云え、お子方が気がかりでござりましょう。
二人とも母を求めて寂しゅうしておらねばよいが……」

和佐の二人の子は、松波の家で志鶴に預けている。
おせいをはじめとする奉公人たちもいるゆえ、案じることはあるまいが……


すると、和佐からぐすっと(はな)を啜る音がした。

「和佐殿、如何(いかが)なされた」

驚いた美鶴は和佐の顔を見た。

「も、申し訳のうござりまする……子たちとかように(なご)う離れたことがなかったゆえ……」

涙ぐむ顔を見られたくないのか、和佐は(たもと)で覆った。


父親譲りのさっばりした気性の和佐は、姑・千賀がかつて主税(我が子)にべったりとくっついて子育てしていたのとは真反対の、傍目(はため)には突き放しているかのようにすら見えるほどあっさりと我が子らに接していた。

されど、松波の家に里帰りする際には必ず子たちを連れてきていた。


「も、申し訳ありませぬ……」

我が子に会いたくて、ずっと(こら)えていたのであろう。

「せいぜい、半月も経てば……御役目も終えると……(あも)う考えておったゆえ……」

一度堰を切ったように溢れ出た涙は、なかなか収まることを良しとしなかった。

「……千晶と……太郎丸の……顔を……たとえ……たった一目でも……見とうござりまする……」


美鶴は義妹が泣き止むまで、まるで幼子を(なだ)めるがごとくゆっくりと背中(せな)を撫で続けた。

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