大江戸ガーディアンズ
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ちょうど和佐の心持ちが落ち着いた頃、()おとが座敷に入ってきた。

「舞ひつる姐さん、おまつさん、階下(した)のお内儀(っか)さんの内所においでなんし」


『おまつ』とは、和佐の久喜萬字屋での名である。

「足を洗った」番頭新造はもう源氏名を名乗らず真名(本名)に戻すのだが、和佐は立場上(さら)すことはできぬ。

ゆえに、実家の松波家から取って「おまつ」と名乗ることにした。


「お内儀(っか)さんがお呼びでなんしかえ」

美鶴が(さと)言葉で返す。

久喜萬字屋では語尾に「なんし」を付けるのだが、この言葉がなかなか抜け切れず、美鶴は松波家に嫁入る前、ずいぶんと骨を折った。


「お内儀(っか)さんからの呼び出しではあらでなんし。行商人がおいでなんし。
それに、彦左が三ノ輪の小間物屋から『仕入れ』て来た(もん)もありんす」

()おりが焦ったそうに云う。

「早う、早う。かようにしなんし間に、めぼしい物がどんどん売れていきなんし」


羽おとも羽おりも、羽衣に面倒をみてもらっている「禿(かむろ)」だ。

美鶴が「舞ひつる」だった頃、二人はふくりとした頬っぺたのまさに幼き(わらわ)であったが、今ではその頬がすっきりとが削げてぐっと大人らしゅうなってきた。

双子のごとく似ていた面立(おもだ)ちも、みるみるうちに異なっていくことであろう。

そして、羽衣の細々(こまごま)とした支度をする禿から、もうすぐかつての舞ひつるのような振袖新造として見世に出ると聞いている。


羽風(はかぜ)ちゃんも、もう階下に降りとりんす」

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