大江戸ガーディアンズ
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平生は、お内儀のおつた(・・・)が勘定場として使っている内所の座敷である。

ところが今は、行商人が持ってきた(かんざし)(こうがい)などは無論のこと、化粧(けわい)の道具や贔屓の客に送る書の道具やら何やらが、部屋いっぱいに(ところ)狭しと並んでいた。


夜見世の支度までは間があるゆえ、まだ小袖のままの(おんな)たちが、色とりどりの小間物を手に取りつつ、買うの買わないだのきゃあきゃあ云い合っている。

吉原の出入り口にある大門から向こうへは行けぬ妓たちのために、時折見世が行商人を呼び「買い物」をさせていた。

とは云え、勘定は立て替えた見世への付け払いになるゆえ、財布の紐を緩めすぎてはならぬ。

それでなくとも十年の年季が明けるまで、この身一つで負い目(借金)を返していかねばならぬのだ。


「こうして見ておると……
其処(そこ)らの町家の娘と、なにも変わらぬのだがな……」

和佐が小声でぽつりと云った。

(さと)言葉は話せぬゆえ、素性を知る美鶴、お内儀(おつた)、羽衣、そして「囮」の羽風(おすて)以外の者とは話はできない。

つまり、羽衣の座敷の外に出るとほとんど話せぬのだ。

見世の()んなに対しては、吉原ではなく長崎の丸山で遊女をしていたゆえ言葉が違いすぎて恥ずかしい、と云うことにしていた。


如何(いか)ように転ぶかは……皆んな『紙一重』でありんす」

美鶴もまた廓言葉であれど小声で応じた。

されど、和佐が「武家の御新造()」でいたままでは一生見ることのなかった暮らしが、吉原(ここ)にはあった。

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