大江戸ガーディアンズ
二階の羽衣の座敷へ戻ってくれば、めいめいが買った物を広げていた。
禿の二人が、羽目を外して思うがまま買ったものを張り合うように互いに見せびらかしている。
そのとき、用事のために座敷に入ってきた「お目付け役」の番頭新造・おしげに見つかり、二人はこってりと油を搾られる羽目となった。
和佐は、近頃おしゃまになってきた千晶には小さな手鏡、男の子が気にいるものがない中で太郎丸には折り紙になる綺麗な千代紙、そして我が身と母・志鶴にはそれぞれ糸瓜水を買っていた。
姑の千賀には何もないと云う。
美鶴は姑・志鶴への土産の熊野筆を買ったがそこそこ値が張る筆であったゆえ、彦左から「おまけ」として同じ熊野筆の細筆をつけてもらっていた。
羽衣はなにも我が身で買わずとも、申せばお客のだれかが支度してくれるゆえ、我関せずを決め込んでいた。
今は、我が身だけが使える隣の座敷にすっこんでいる。
「羽風はなにをお買いでなんしかえ」
美鶴が尋ねると、羽風は猫を模った根付を見せた。彦左から買ったものだ。
猫は廓て好まれる動物だ。
久喜萬字屋にはおらぬが、座敷持ちの遊女が飼っていることが多い。
紐の先にある猫の中には鈴が入っていて、動くたびにちりりん、と軽やかな音が響いた。
「あら、なんと可愛らしゅうなんし」
美鶴が褒めると、羽風の頬に朱が差しにっこりと笑った。
「廓言葉が不安でありんすか。
されど、そないになにも話さでは、お客に愛想をつかされかねんなんし」
ところが、美鶴が窘めると羽風はとたんに困り顔になってうつむいた。
その眉が済まなそうに「へ」の字になっている。
思わず、可哀想に見えて仕方なくなるが……
されども、これより先我が身一つでやっていかねばならぬ羽風のためには、心を鬼にしなければならない。
なぜなら、羽風はいつまでも、階上の座敷にいられるわけではないからだ。
「囮」の御役目を終えれば、羽風はきっと——階下の廻り部屋に移される。