大江戸ガーディアンズ
「……あっ、松波様……その……えーっと……」
くたくたに着古した木綿の着物を尻っ端折りに絡げた岡っ引き・伊作が、いきなり現れた兵馬に前にして糸のように細いはずの目を押し広げる。
「へぇ、あのお内儀のことでさ。
わざわざこの日の昼に行商人を見世に呼んで、妓たちに気晴らしに買い物させておりやす」
たまたまこのとき、面番所に寄っていた与太が「親分」の代わりに答えた。
実は与太はこの一月半ばかり、与太は鳶はおろか火消しの仕事もせず吉原にいた。
とは云え、面番所にいたわけではない。
久喜萬字屋へ男衆として入っていたのだ。
されど、「用心棒」のごとき外での仕事のため、一階の廻し部屋の「女郎」をちらりと見ることはあれど、二階の「遊女」なぞ一目見ることすら叶わなかった。
よって、与太にできたのはもっぱら「見世の様子」を伺うことくらいで、とても「囮」とは云えないものであった。
それでも、仕事を休んでまで吉原に来たことを、爪の先ほども後悔していない。