大江戸ガーディアンズ
「本日は、主さんらにお願いごとがありんす」
羽衣が改まった物云いをする。
「ほう、如何した。まさか、いきなり花魁道中をしたいなぞと云うのではあるまいな」
羽衣の「娼方」である近江守が豪放磊落に笑った。
引手茶屋から廓へ向かう道すがらを、大名行列よろしく遊女たちが豪華絢爛に着飾って練り歩くさまを「花魁道中」と呼ぶ。
本当に羽衣が望めば、二つ返事で引き受けそうである。
されども、羽衣はその華奢な身体にそぐわぬ大きな鼈甲の笄や珊瑚の簪が何本も挿された頭を、ふるふると左右に振った。
「うちのお内儀さんよりの言伝でなんし。
本日限りでありんすが、舞ひつるを……
『胡蝶』と呼んでおくれでなんし」
さように云うと、羽衣はすっ、と三つ指をついた。
お内儀が美鶴を再び久喜萬字屋に呼び戻したのは、無理難題を力ずくで通す御武家に対して一泡吹かせたいだけではなく……
たとえ一日限りでも「胡蝶」と名乗らせたかったゆえだった。
幼き頃から、たゆまぬ精進を続けてきた美鶴に「胡蝶」として「初見世」を迎えさせたかったのだ。