大江戸ガーディアンズ
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もうそろそろ、引手茶屋に「主さん(お客)」を迎えに行った羽衣と舞ひつる改め胡蝶が戻ってくる頃である。

「舞ひつる姐さ……いや、胡蝶姐さん、綺麗(きれぇ)だった……なんし」

羽風(おすて)はなにか話すたびに周囲の者から言葉遣いを直されるゆえ、怖くなってますます(さと)言葉から遠ざかっている。

「あっ、彦左は今夜、玉菊(たまぎく)姐さんの指名を受けてたんじゃ……」
「いいんだ」

彦左は羽風の言葉を遮った。


最高位の呼出がいないこの見世で、羽衣と同じ昼三として次代の呼出を狙う玉菊の「指名」は、確かにありがたいとは思うが……

「今宵は、おまえにとっては本当の意味での『初見世』だかんな」

だからこそ断って羽風の化粧(けわい)と着付けをしていた彦左は、思わずため息を吐いた。


——これでは、たとえ一階(した)の廻し部屋でも務まるかどうか……


もしもこの久喜萬字屋(大見世)で見放されたら、負い目(借金)ごと中見世や下見世に売っぱらわれてしまう……

そして、どんどん負い目ばかりが嵩んでいき、いつの間にか十年経っても年季が明けなくなって、しかも一番劣悪な切り見世に追いやられてしまう……

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