大江戸ガーディアンズ
「髪は『おなごの命』とは云うが……髪なぞ放っておいても自ずと伸びて元通りになりんす」
彦左が息をのむ。
「わっちら吉原の妓は、皆んな十五かそこらで、髪よりもっと一番大事なもんを、たかが銭のためにとっくに無くしとりんす」
彦左がごくりと唾をのむ。喉仏が大きく下がって上がった。
「『髪切り』に髪を切られた妓は嘆き悲しんで見世に出られんようになりんしたって云うが……本当は、どの妓も、見世に出なくてもようなって、喜びなんしていないかえ。
そして、今でも彦左をひたすら待ちなんしていやせんかえ。
——『髪切り』が彦左でありんしたことを、しかと黙りなんしてね」
口が滅法界もなく固いのは、吉原の、しかも大籬で身ひとつでのし上がった遊女の「心意気」だ。
「えっ、其れはつまり……」
和佐が美鶴に目を送る。
「『髪切り』に髪を切られた妓たちの『間夫』が彦左だった、って云うことにてござりましょうぞ。
おおよそ、どの妓にも年季明けに所帯を持とうとでも云うておったのではありませぬか」
「『間夫』とは如何なるもので……」
「廓の妓が真の心——『まごころ』を捧げた唯一の男のことでござりまする」
廓の妓は、遊びでやってくる客の男には「騙されない」と思っているが、同じ廓で働く男は妓が抱える日々の辛さをよっく知っているから「騙すはずがない」と思ってしまうのだ。
ゆえに、つい「まごころ」を捧げてしまう。