大江戸ガーディアンズ

「では、なにゆえ、わざわざ明るい満月の夜に……」

まるで吟味方のごとく矢継ぎ早に発されるのは、和佐に流れる「町方役人」の血であろう。


とうとう、今まで押し黙っていた彦左が口を開いた。

「夜空が明るいのは見つけるのに便利なのと同じくらい逃げやすくもなるのさ。
手引きする妓も、おれを案内しやすいしな。
それに、余所(よそ)の廓の二階の間取りのことなんざ知らねえしよ。
落ちても死にゃしねえだろうが、打ち処にもよるからな」

匕首は下ろされていた。

だが、羽衣は相変わらず畳の上に押し付けられている。油断はできない。


「どうやって知り合ったのだ。余所の見世だぞ」

その物云いは吟味方の役人そのものであった。

「しかも、廻し部屋の女郎ならともかく部屋持ちの遊女なんぞと……」

和佐はこの一月半の廓での暮らしから首を傾げる。

化粧(けわい)や着付けをする彦左は確かに二階に上がれるが、それができるのは久喜萬字屋だけである。


「方々の見世で、妓向けの小間物なんかを売ってっからよ。そのうち、妓から見世を通さずに(じか)で頼まれるようになっちまって、そいで……」

「あぁ、なるほど……」

和佐はちょうど我が身も子どもと母のために買っていたので、深く肯いた。

「わたくしも買ったが、息子の欲しそうな物がなかったゆえ、確かに直に頼んで持ってきてもらえれば……」


そのとき、狭い部屋に大音声(だいおんじょう)が響いた。

「起っきゃがれっ、(たわ)け者めがっ」

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