大江戸ガーディアンズ
「咎人がなにかしちめんどくせえことをするときにはよ、手前に護りてぇもんがあるときって相場が決まってんのよ」
さように云うと、兵馬は部屋の中へずかずか入っていった。腰にはしっかり大小の刀を手挟んでいる。
「おい、その物騒なもんはこっちによこしな」
だが、彦左にとっては多勢に無勢な中、匕首は正真正銘の「懐刀」だ。手放すことはできぬ。
「そんじゃ、せめて羽衣からは退いてくれ」
すると、羽衣からは離れた。和佐がすぐに向かって、羽衣を抱きかかえるようにして出入り口の板戸まで連れてくる。
「何の騒ぎか……羽衣は何処におる」
なんと、近江守までが痺れを切らして、かような処にまでやってきた。
「ぬ、主さん……いえ、左京さま……」
羽衣が弱々しく近江守を呼んだ。
二人だけのときにの呼び名であった。
「は、羽衣か……如何した、その形は……だれにやられた……」
先刻までの引手茶屋にいたときとはあまりにも変わり果てた姿に、驚いた近江守が羽衣に駆け寄った。
広島新田藩の藩主が狭い三畳間の床に膝を付き、吉原の遊女を胸に掻き抱く。
「身請けの金くらい、いくらでも出すと云うておるのに……
手薄になった見世のため、世話になったお内儀のため、年季が明けるまではと申すゆえ、好きにさせておいたが……」
近江守はおのれの甘さを痛感した。
「もう一日たりとも、かような処におまえを置いておくことは罷りならん。
即刻、我が屋敷に連れ帰り側室にする。
おまえの生家は武家であるゆえ、案じることはないぞ」