大江戸ガーディアンズ

さように思った与太は、今から二月(ふたつき)ほど前のある日、久喜萬字屋の裏手でそのおなごに声をかけた。

『おめぇさん、名はなんて云うんでぃ』

すると、おなごはどこか寂しそうな(くら)い顔になり、目を伏せた。

『おらぁ……おすてって云うでがんす。
……「捨てる」の「おすて」だんべぇ』

その様子(さま)は、今まで名乗るたびに(いや)な思いをしてきたのだな、と(うかが)えた。


されども——実は与太も同じだった。

『そうかい。おいらは、与太っつうんだ。
……「与太者」の「与太」だぜ』

与太がさように名乗り返すと、おすてがパッと顔を上げた。

団栗(どんくり)のような大きな(まなこ)が真ん丸になっている。


与太も名前では、口さがない者たちから嫉みも相俟(あいま)って、今までさんざん揶揄(からか)われてきたのだった。

< 23 / 316 >

この作品をシェア

pagetop