大江戸ガーディアンズ
さように思った与太は、今から二月ほど前のある日、久喜萬字屋の裏手でそのおなごに声をかけた。
『おめぇさん、名はなんて云うんでぃ』
すると、おなごはどこか寂しそうな昏い顔になり、目を伏せた。
『おらぁ……おすてって云うでがんす。
……「捨てる」の「おすて」だんべぇ』
その様子は、今まで名乗るたびに厭な思いをしてきたのだな、と窺えた。
されども——実は与太も同じだった。
『そうかい。おいらは、与太っつうんだ。
……「与太者」の「与太」だぜ』
与太がさように名乗り返すと、おすてがパッと顔を上げた。
団栗のような大きな眼が真ん丸になっている。
与太も名前では、口さがない者たちから嫉みも相俟って、今までさんざん揶揄われてきたのだった。