大江戸ガーディアンズ
「うちは国許に領地を持たぬ江戸定府の新田藩ゆえ、奉公人も少なくだいたいの者は覚えておる。
あれが輿入れと共に故郷の広島藩から連れてきた女であろう。
中でも可愛がられて熱心に仕えておったゆえ、ある日歳の離れた身分違いの町家の男と一緒になりたいから申して、青山緑町の屋敷を出て行ったときには驚いた。
されど、亭主と小間物屋を始めて芸州産の物を扱っておるため、それこそ江戸では手に入らぬ熊野筆など屋敷で入用な物があれば、その店を使っておる」
——伊作の奴も関わっておるのであろうか……
兵馬の本意ではないが、奉行所としては糺すため、早急に番所にしょっ引く手配をせねばならなかった。
ただ……町家のことは奉行所で吟味できるが、大名の奥方様となると——
「内向きのことは、此方で預かる」
やはり、近江守はさように判じた。
すると、そのとき……
「兄上っ、後ろっ」
和佐が金切り声をあげた。
すぐさま振り向くと、彦左が匕首を振りかざしていた。
近江守と話をするのに背を向けていたのが仇となった。