大江戸ガーディアンズ
——この野郎、付け火までしゃあがって……
人々が犇き合って暮らす江戸の者にとって、火事はなによりも恐れることである。
それを自ら行う付け火(放火)なんてした暁には「火罪」と云うとんでもなく重たい罰が待っている。
江戸の市中を引き回されたあと、刑場に連れて行かれて柱に括り付けられ、そして四方に置かれた薪に火が放たれて焼き殺されるのだ。
「旦那さま、早う彦左を……」
火が出たのがそろそろ分かる頃であろう。
外が騒めいてきた。野次馬かもしれない。
また、囮とまではいかないが、奉行所の同心や岡っ引き・下っ引き連中で周囲で張り込んでいる者たちも集まってくるはずだ。
「おう、さようであるな。こいつをとっとと引き渡してしまおう。おい、行くぞ」
兵馬は彦左の後ろ手の紐を、馬の手綱のことく引っ張った。
「義姉上、わたくしたちも早う逃げねば危のうござりまする」
和佐が美鶴の袂を引っ張る。
「和佐、美鶴を頼んだぞ」
「御意」
和佐が畏って頭を下げた。
いっぱしの「町方役人」の妹に、
「此度の御役目、大儀であった」
と、兵馬は労いの言葉をかけた。
「だが……主税はおまえの『艶姿』が見られず歯噛みするであろうな」
——もし一目見たらば、あのすかした男がすっかり脂下がって腑抜けやがるだろうけどな。
「もう、行きまするゆえ」
和佐は頬を染めて兄をきゅっと睨みつつ、部屋を出た。