大江戸ガーディアンズ

与太はあまりの驚きに、咄嗟に声も出ないくらいだった。

「早速、吟味に取り掛かるゆえ、(それがし)は奉行所に戻る。
それから、伊作の女房もこの件に絡んでおることがわかった。
おまえは、その女房も知っておるか」


「えっ……伊作親分までが……」

また言葉を失いかけたが、与太だって「御用聞き(手下)」の端くれだ。腹にぐっと力を込める。

「伊作親分よりずいぶん歳が下で、一体(いってぇ)親分の何処に惚れたんでぇ()うぐらい(しん)のあるおなごでやす。
三ノ輪の店で扱ってる(もん)が、数は少ねぇけど珍しいってんで、玄人の(おんな)たちに評判(しょうばん)でさ」


そして、うーんと腕を組んで考え込むも……ぱっと顔を上げた。

「あっ、話したことは数えるほどでやすが、そういや、ちょっと訛りのある女でござんした。
確か……芸州……安芸国の出だっ()っておりやした」


松波は深く肯いた。

相分(あいわ)かった。吟味には与太、おまえも加わってもらうからな。
……ところで、何処かで馬は手配できぬか」

与力は江戸市中での馬の騎乗が認められていた。
駕籠(かご)なんぞでは時の間に合わない。

「あっ、そんならちょうど今、世話をしてた処でやんす。ただ、おいらは(くら)が……」

「構わぬ。(それがし)が付ける。厩へ案内(あない)せよ」


それから、松波は彦左を駆けつけた部下の役人に引き渡すと、慌ただしく奉行所へ向かう馬上の人となった。

< 240 / 316 >

この作品をシェア

pagetop