大江戸ガーディアンズ

「ところで旦那さま、羽衣姐さんは息災でござったか」


美鶴が「舞ひつる」であったときの姉女郎・羽衣は広島新田(しんでん)藩主・浅野 近江守の側室となり、青山緑町の浅野屋敷に移った。

今は羽衣の真名(まな)から「千景(ちかげ)の方」と呼ばれている。

羽衣は「捨てた名ゆえ」と云って、だれにも其の真名を明かさなかった。

ゆえに、近江守ですら知ったのは我が側室()に迎えてからである。


「息災ではあろう。
御前様が奥に引っ込めておるだけで」


羽衣だって格子はないが「座敷牢」だった。

ただ、納戸のごとき三畳間に一日中いても平気の平左な人である。

周囲が案じるほどのことではないかもしれぬ。


「——それでだな、
此度の件は本日で一句切りでござろうと思うのだが……」

急に兵馬の歯切れが悪うなった。

「さようでござりましょうが、何か」

美鶴はきょとんとする。

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