大江戸ガーディアンズ

兵馬が時折口ごもりながら云えば、美鶴が「あぁ」と合点がいった顔になる。

「まだ、さようなことを仰せでござりまするか」

美鶴はあっさりと返した。

此れから「武家の女」として生きていく美鶴にとっては渡りに船の話である。


「わたくしもそろそろ、松波家の嫁としての務めを果たさずば、肩身が(せも)うござりまする。
特に、和佐殿は嫁入って立て続けに子を上げてござるのに、このままでは舅上(ちちうえ)様にも姑上(ははうえ)様にも申し訳が立ちませぬ」


男子(おのこ)であろうと女子(おなご)であろうと、子を産まねばいずれ兵馬から離縁を云いわたされるやもしれぬ。

——または、旦那さまが余所(よそ)でこしらえた子を育てねばならぬかも……

いずれも、絶対に避けねばならぬ。


「そ、そうであったか……そ、それは悪いことをした……」


今までの美鶴であらば、「はしたなき女、やはり(くるわ)(おんな)か」と思われるのが(いや)でなにも云えなかった。

だが、しかし——

あのような火事場の炎と煙の中から、実の父親に救い出されて……

そして、松波家に帰ってこられたのだ。

なにも恐れるものはなかった。


「武家の妻女は旦那さまに呼ばれませぬとお部屋に参れぬ、と聞いておりまする。
旦那さま、どうか今宵からでもわたくしをお部屋にお召しくださいませ」

美鶴は三つ指をついて平伏した。

< 284 / 316 >

この作品をシェア

pagetop