大江戸ガーディアンズ
兵馬が時折口ごもりながら云えば、美鶴が「あぁ」と合点がいった顔になる。
「まだ、さようなことを仰せでござりまするか」
美鶴はあっさりと返した。
此れから「武家の女」として生きていく美鶴にとっては渡りに船の話である。
「わたくしもそろそろ、松波家の嫁としての務めを果たさずば、肩身が狭うござりまする。
特に、和佐殿は嫁入って立て続けに子を上げてござるのに、このままでは舅上様にも姑上様にも申し訳が立ちませぬ」
男子であろうと女子であろうと、子を産まねばいずれ兵馬から離縁を云いわたされるやもしれぬ。
——または、旦那さまが余所でこしらえた子を育てねばならぬかも……
いずれも、絶対に避けねばならぬ。
「そ、そうであったか……そ、それは悪いことをした……」
今までの美鶴であらば、「はしたなき女、やはり廓の妓か」と思われるのが厭でなにも云えなかった。
だが、しかし——
あのような火事場の炎と煙の中から、実の父親に救い出されて……
そして、松波家に帰ってこられたのだ。
なにも恐れるものはなかった。
「武家の妻女は旦那さまに呼ばれませぬとお部屋に参れぬ、と聞いておりまする。
旦那さま、どうか今宵からでもわたくしをお部屋にお召しくださいませ」
美鶴は三つ指をついて平伏した。