大江戸ガーディアンズ
「えっ、おるいじゃねえのか」
与太は素っ頓狂な声で叫んだ。
「ば、馬鹿野郎っ。
見合いに来て別の女の名前云う奴があるかっ」
父の甚八から思いっきり頭を叩かれた。
「いってぇ……」
与太は叩かれた頭を摩る。
「この唐変木っ、恥ずかしいったらありゃしない。
……お内儀さん、御免なさいましよ」
母のおふさがお内儀にぺこぺこ頭を下げる。
「いやいや、いいんだよ。
この間与太には気を持たせるようなこと云っちまったからね。堪忍しとくれよ」
今度はお内儀の方が頭を下げる。
「ほら、あのときお忍びで来なすった御武家の御仁がいなすっただろ。
その御仁の御付きの人——『近侍』って云ったかねぇ。
そん人がさ、おるいのことを滅法気に入っちまってさ。
おるいも満更でもなさそうだったんで、とんとん拍子に嫁ぎ先が決まったんだよ。
そいで、どっか御武家さんの養女に入んなきゃ嫁げねぇってんで、おるいはすぐに店を辞めちまったのさ」