大江戸ガーディアンズ
「えっ、こ、こんな奴でもいいってのか……」
とても江戸の町火消し「は組」の頭として、いつも若い者に発破をかけている「鯔背な男」とは思えぬ間の抜けた面で、甚八はつぶやいた。
「あんた、せっかくおひろちゃんは『末長う』っ云ってくれてんだからさ、今のうちに……」
おふさは夫の袂をぐいぐい引っ張る。
すると、甚八は振り向いて店の主人に向かって声を張り上げた。
「主人っ、祝いだ、祝い酒だっ。江戸中の酒を持ってきてくんなっ」
されど、与太は父を止めた。
「親父、ちょいと待っとくれ。一つ頼みがあんだ」
「おう、なんでも云いねぇ」
浮かれた甚八は上機嫌で応じた。
「伊作の親分が奉行所に十手を返すっ云ってて、松波様から十手持ちにならねえか、って云われてんだ。だから——」
十手を持つ、と云うことは「岡っ引きになる」ことだ。
「祝言を機に——
おいらに祖父ちゃんの『辰吉』を名乗らせてくんねえか」
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「大江戸ガーディアンズ」〈 完 〉