大江戸ガーディアンズ

実は、先達(せんだっ)てからの「髪切り」はどういうわけか吉原の大見世ばかりが狙われていた。

見世の格は「(まかぎ)」で決まる。

表通りに面した一階にある女郎たちが客引きのためにずらりと並ぶ「張見世」には、目隠しのための格子——籬がある。

大見世にある大籬は全面が格子になっていて、中の女郎の顔がわかりづらい。
だが中見世にある中籬は、右上の四分の一が空いているため、覗くようにすれば見える。
さらに小見世の小籬ともなれば、上半分の格子がすっかりなくなるから見放題だ。

格の落ちる見世になるほど女郎たちの顔が丸見えになるゆえ、買う方の客にとってはしかと(・・・)「見えた」方がしくじりが防げて好都合であるはずだが、そうは問屋が卸さない。

格の高い見世になればなるほど、いい(おんな)が集まってくるのが世の常である。

とは云え、呼出や昼三などの「遊女」は張見世には座ることはない。
さような客引きなどをせずとも、馴染(なじ)みの客がきっちりついているからだ。


そして、江戸町二丁目に(くるわ)を構える久喜萬字屋は、大籬が(ゆる)された大見世だった。

< 32 / 316 >

この作品をシェア

pagetop