大江戸ガーディアンズ

ついに、彦左の重い口が開いた。

「どうやら……松葉屋さんも扇屋さんも、一見(いちげん)破落戸(ごろつき)が紛れる一階の廻し部屋ばっか気を取られちまってて……」

与太の目に光が走る。

これまで、おすてと一緒にいる(ところ)を彦左に見られるたび、与太は声が掛かる前にさっと姿を消していた。

なのに今日「得意の逃げ足」を使わなかったのは、うまく行けば彦左の口からもなにか「手掛かり」が聞き出せるかもしれないと思ったゆえだ。


「……そいで、身元のしっかりした御仁しか入って来られねぇ二階の座敷の方が、どうも手薄になっちまってたらしいんでさ」

——なるほどな……
「大見世」ゆえの「油断」が(あだ)になった、っ()うこったな。


「されど、久喜萬字屋(うち)は松葉屋さんや扇屋さんみてぇなことにならねえよう、二階もきっちり用心しておりやす。
賊の野郎にゃあ、絶対(ぜってぇ)に入られやしやせん」

彦左はきっぱりと云い切った。

おすても横でうんうんと大きく肯く。

一度喪ってしまえば、再び手にするのに至難の業なのが「面目」だ。
たとえ(くるわ)であろうと、大店(おおだな)である限りは「見栄」がある。

なんとしても護らねばならぬ。


——まっ、そこまで判ってるっ()うんなら……
久喜萬字屋は大丈夫(でぇじょうぶ)かもしれねぇやな。


与太がさように思ったのも束の間——

「……されども、(あに)さん」

なぜか、また彦左からぎろりと睨まれる。

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