大江戸ガーディアンズ

ゆえに、火消しは平生には別の職に就いている。

その多くは「(とび)」である。

鳶とは家屋敷を建てる際に、大工が作業しやすいように足場を組む仕事だ。

高所に張り巡らされた板の上を行き交うため、危うきことこの上ない仕事ではあるが、そのぶん実入りは良い。
しかも、雨の日は休みになるなど、年がら年中あくせく働かなくても良いのだ。

そして、なんと云っても火消しの御役目の際に、培った()の技量が役に立つ。

いったん燃え盛った火は、水をぶっかけたところでそう易々(やすやす)と勢いが削がれるものではない。

それでも火の手を抑え込むためには、その火の燃え移りそうな先にある家屋敷を片っ端からぶっ倒していかなければならぬ。

そのためには建物の仕組みを知り、なおかつ高所にも慣れた鳶が打ってつけなのだ。


さような「火消しの鳶」は「江戸の三男(さんおとこ)」に数えられるほどの「鯔背(いなせ)ぶり」だった。

「与力」「相撲取り」そして「火消しの鳶」の三男たちは、江戸中の年若き(おなご)から熱い目で見られ、絶えず黄色い声を上げられていた。

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