大江戸ガーディアンズ
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兵馬の前から辞した与太は、縁側から庭先へとひょいと降りて雪駄(せった)を履いた。

目の前には、案内人(あないにん)がいなくては迷ってしまうであろう三百坪はある御屋敷の庭園が広がっている。

今宵は朔月(新月)で、月も出ぬ真っ暗闇であるにもかかわらず、与太はまっすぐに裏口にあたる勝手門へと足早に向かう。


そして、勝手門の脇にある小木戸をそーっと(くぐ)って外へ出たそのとき——

「……あい待たれよ」

背後から低く押し殺した声がして、与太はびっくりして振り向いた。


深編笠を下ろして顔を半分覆い、口元だけを見せた長身の男が、知らず識らずのうちに与太の真後ろに忍び寄っていた。

——い、いつの間に……

油断した覚えはつゆほどもないと云うのに。

与太の背筋に冷たい汗が、つーっと一筋流れた。


男は着流しに黒羽織、腰には長刀・短刀の二本差し、さらに裏白の紺足袋(たび)雪駄(せった)履きの姿だった。

——この男……同心じゃねぇかよ。

奉行所(おかみ)の「手先」として動く与太の「雇い主」である杉山も、平生はかような出立(いでた)ちだった。


そのとき、かちり、と音がした。

——お、おい……

男が、腰に差した太刀(たち)(つか)に右手を掛けながら、左手の親指で刀の(つば)を浮かせた音だった。

——ま、まさか……「切り捨て御免」じゃねぇだろな……

与太の背筋にまた一筋、つーっと冷や汗が流れる。

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