大江戸ガーディアンズ

武家にとっての婚姻は嗣子(あとつぎ)となる「子を()す」ためにある。

瞬く間に一年が過ぎた今、父母は美鶴に気を遣ってか、表立ってはなにも云わぬ。

されど、奉行所内の口さがない者たちからは「子はまだか」と尋ねられた。
さらに、松波の家に縁付く一族郎党からも、そろそろ云いだされかねない。

それに子をもうければ、美鶴とて産んだ子どもかわいさに、もしかして三年経てども兵馬の妻女として松波家に残ってくれるやもしれぬ。

案外、子さえ生まれればこれ幸いと懸念していたことがすっきりと片付くのではあるまいか。


されども……

武家の「仕来(しきた)り」どおりにいけしゃあしゃあ(・・・・・・・・)と美鶴を我が寝間に呼び出すことなぞ、あのような真似を為出(しで)かした兵馬の身ではできぬ。

ゆえに……


——今宵こそは……

そなたの寝屋に参ろうぞ。

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