大江戸ガーディアンズ

兵馬の妻・美鶴が……

『奉行所から云われるがままに、北町の同心の家に仮住まいしつつ、指南役を仰せつかった刀自(とじ)より「町方役人の妻」としての心得を伝授され、日々励んだ』
と云うのは、表向きでなく本当(まこと)のことである。

それは、『沁み込んだ「国許(くにもと)」の訛りを改める』ためでもあった。

そして、その折に『仮住まい』した『北町の同心の家』と云うのが……

——島村家であった。


二人は、かようにして知り合った。

しばらくの間、一つ屋根の下で暮らした。


その後、奉行所の下知(げじ)によって兵馬と美鶴は祝言を挙げて夫婦になった。

ところが、行き違いから初夜の(ねや)で美鶴が広次郎の名を呼んだことが(あだ)となり、兵馬が御役目から帰ってこなくなった。

それでも、武家の女としてじっと(こら)えて耐え忍んでいた美鶴であったが、さすがに疲れ切ってしまい、しばし松波の家を出ることにした。


すると、すぐさま広次郎が美鶴の(もと)に訪ねてきて、かように告げた。

『そなたが離縁して、松波の御家を出られたとしても、すぐさま再嫁は難しゅうこざる』

さようなことがあらば、世間からは美鶴と広次郎に「不義密通」の疑いが掛けられるやもしれぬゆえだ。

『されども……三年経てば……』

恐らく世間の目も緩み、むしろ「武家の女」としては一刻も早く再び嫁いで、今度こそ必ずや婚家に対して御役目を果たさねばならぬ。

そして再び嫁する際には、うんと歳の離れた御仁の後妻(のちぞえ)でも、もしくは、与力のような立派な士分でもなかろうとも——


『今度こそ、そなたを……(それがし)の妻に迎えることができる』

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