大江戸ガーディアンズ
〜其の弐〜
翌朝になった。
まだ夜が明けきらぬうちに起床すると、すでに寝間の外で待っていた通いの髪結いが入ってきて、早速「仕事」にかかる。
奉行所に仕える与力や同心たちにとって毎朝髪をきちっと結ってもらうのは、慣わしであり矜持でもある。
兵馬は、今日もまた巷で評判の「本多髷」を所望した。
町家の者のように左右の鬢を膨らますことなくぴっちりと高く結い上げ、髷 はできるだけ細くさせて月代にはらりと垂らす髪型だ。
寝間で髪を整え終え、髪結いを帰らせた頃にはすっかり朝になっていた。
隣の座敷に運ばれた朝餉を、顔を見せた妻の給仕によって手早く済ませる。
無駄口叩かずとっとと食すのは、武家の男の「嗜み」の一つだ。
それから、妻の介添で寝間着から御役目の装束に着替える。
着物の上に肩衣を羽織り、下には踝までの丈の縞の平袴、さらに継裃と呼ばれる上下の異なる裃を付けるのが御役目での与力の姿だ。
そして、式台で腰に大小の刀をしかと手挟み、土間に降りて目の覚めるような白足袋に雪駄を履くと、妻を筆頭にずらりと並んだ家中の者たちに見送られて長屋門より出立する。
屋敷を出てまず向かうのは、町家にある湯屋だ。
御役目を賜る町奉行所へ参る前に、其処でひとっ風呂浴びるのだ。
ちなみに、与力は朝の湯屋では「女湯」に入る。
朝の忙しない時分に湯屋などに通える町家の女房連中はおらぬゆえ、朝の女湯は与力の「貸切」になっている。
なんと、専用の刀置き場まであるくらいだ。
実は、男湯から聞こえてくる巷の噂話をこっそり仕入れて御用に活かす、という「御役目」も兼ねている。