大江戸ガーディアンズ
〜其の参〜
ようやく夜が明けた早朝、宿直の御役目を終えた主税は、南町の奉行所から八丁堀の組屋敷に帰ってきた。
されども、ゆうに三百坪はあろうかと云う「我が家」の前まで来ると、いきなり立ち止まった。
そして立派な長屋門に向かって、思わずほぉーっと深いため息を吐いた。
ところが、供に付く中間たちがさような主君の姿を見ても、決して訝しむことはない。
この姿が……何時ものことであるがゆえだ。
そのとき、閉ざされていた重たい門がゆっくりと開いた。
主税は何事もなかったかのごとく、面を上げて前を見据えた。
家屋敷の入り口には、妻である和佐を筆頭に家中の者たちがずらりと並んで、勤めを終えた主税の帰りを待っていた。
南町奉行所・年番方与力である松波 多聞の娘・和佐は、若かりし頃「浮世絵与力」呼ばれた父親には似ず、母親と瓜二つに育った。
その母親・志鶴は、北町奉行所の年番方与力であった佐久間 彦左衛門の娘として生まれ、若かりし頃は「北町小町」と謳われるほど器量に長けた女子であった。
「只今、帰ってごさる」
主税は妻に告げた。
「お帰りなされませ、旦那さま」
和佐は夫に向けて深々と低頭した。