大江戸ガーディアンズ

おるいに茶を頼むと、与太は伊作の(もと)へ駆け寄った。

「待たせちまったな」

「いや、構いやしねぇよ」

小上がりでは、昼間にもかかわらず伊作がちろり(・・・)と猪口を手に、すでに一杯()っていた。

——ま、いつものこったがな。

水茶屋ではふつう茶しか供さないものであるが、常連に限って酒やちょっとした(さかな)も出していた。

伊作はまだ見習いの下っ引きの頃から、伝馬町の外れにあるこの店の「馴染み」だ。


昼日中から酒を()る伊作は、見場はお世辞にもパッとしないにもかかわらず、かなり歳の離れた女房・おかよがいた。
そして、そのおかよが三ノ輪で小間物屋をやることで暮らしを立てている。

所謂(いわゆる)「髪結いの亭主」が「本職」で、その合間に岡っ引きをしているような具合だった。

それゆえ、当然のことながら身軽でもなければ夜目が利くわけでもない。

与太の祖父・辰吉もそれほど頼りにしていた手下ではなかったと聞く。
されども、なんとなく憎めぬ性質(たち)であったゆえ(そば)に置いていたそうだ。

それと、町家で生まれたくせに奉行所(おかみ)の「手先()」である岡っ引きをしたがる酔狂な(もん)が、なかなかいないと云う所以(ゆえん)もあるのだが——


「おめぇ、飯は喰ったのか」

猪口をくいっと(あお)りつつ、伊作から尋ねられる。

「おう、喰ってきた」

朝から鳶の作業をしていた与太は、短い昼餉(ひるげ)の間を縫って来ていた。

飯抜きではとても身体(からだ)()たぬゆえ、母親・おふさから持たされた握り飯を先刻(さっき)頬張(ほおば)ってきた。


「そいで、親分……奉行所(おかみ)は『髪切り』のことを何()ってやがんでぇ」

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