大江戸ガーディアンズ

「わらわはッ、太郎丸の将来を思うがゆえに申しておるのじゃッ」

千賀の雪のごとく白い両顳顬(こめかみ)に、くっきりと青筋が浮き出た。

「我が本田家は、ただ刀を振りかざす武張っただけの家門ではござらぬッ。
御公儀より代々赦帳撰要方(しゃちょうせんようがた)与力の御役目を(うけたまわ)る御家にてござりまするッ。
さような本田家を、末代まで磐石(ばんじゃく)にするがために……そなたの跡目を、(つつが)なく太郎丸が引き継ぐために……
時代錯誤の剣術なぞに精を入れるより、湯島の学問所を目指す方が得策だと申しておるのじゃッ。
そなたは、かような母の心がわからぬのかッ」

そして、(いきどお)らせるがままに激しく張り上げていた声を急に落とし、今度は唸るようにつぶやいた。


「——そもそも、そなたの妻女が『不浄役人』の娘であらねば、こないなことを云わずとも済んだやもしれぬのに……」

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