大江戸ガーディアンズ

幼き頃、主税は父親・本田 政五郎(まさごろう)に命じられるがまま剣術(やっとう)道場に入った。

其処(そこ)にいたのが、又従兄(またいとこ)であり(のち)に朋輩にもなった松波 兵馬(ひょうま)だった。

兵馬には弟がいて、いつも兄の後ろにくっついて道場にやってきていたが、なにぶん幼過ぎるがゆえ、まだ稽古は付けてもらえずにいた。

一人っ子だった主税も、その又従弟(またいとこ)をまるで我が弟のごとく可愛がった。


きちっと正座し、兄の云い付けどおりに(いささ)かも身動(みじろ)ぎせず、じっと前を見据える——されど、まだ(いとけな)面立(おもだ)ちを見ていると……

無性に憐憫の情が湧き上がってきて、思わずその(かしら)を「ぽんぽん」として(ねぎら)ってやった。


するとその刹那、はっとして(なつめ)のごとき大きな目を見開いたかと思うと、恥ずかしそうにはにかみながら目を伏せるのだ。

主税の方も、いつも朋輩から「鋭き眼差しゆえに睨んでいるとしか思えぬ」と揶揄(からか)われる切れ長の目が、知らず識らずのうちに緩んでいた。

さらに、いつも引き締まっていて崩れることのない口元にも、(おの)ずと笑みが浮かんでいた。

< 84 / 316 >

この作品をシェア

pagetop