大江戸ガーディアンズ
いくら梲が上がらなそうに見えたとて、十手持ちの「親分さん」は伊作だ。
ゆえに、奉行所からの知らせは与太には入ってこない。
なので、こうして昼餉の合間にわざわざ話を聞きに来ているのだ。
もっとも、近頃は手間がかかって面倒な聞き込みなどは丸投げ——否、「任される」ようになってきたが。
大通りから奥に入ったこの水茶屋は、かような内密な話をするにはちょうど良い店であった。
「……あいよ、与太」
先刻まで鳶の仕事をしていた上に往来を駆けてきて砂埃で汚れた足を、土間に置かれていた盥に浸けてざっと洗っていた与太に、おるいが茶を持ってきた。
「おう、悪りぃな」
与太は盥に掛けてあった手拭いで濡れた足を急いで拭うと、おるいから茶を受け取った。
それから、小上がりにどかりと腰を下ろして胡座をかく。
そして、茶を一口含んだ。
奥まった店ではあるが、駿河産の中でもわりと上質な茶葉を使っているらしい。
「おう、悪りぃな」
言葉とは裏腹に、昼からもまた鳶の仕事が待っている与太に対してちっとも悪いと思ってない口ぶりで、伊作は手酌でちろりから猪口に注いだ。
与太の方も、別に気を遣って酌をしてやったりはしない。
確かに「子分」の身ではあるが、伊作がさんざ世話になった親分の「孫」でもある。