大江戸ガーディアンズ

「ち、主税っ……」

思いがけず、一人息子にきっぱりと云い渡された千賀は、わなわなと震え出した。

「そ、そなたはっ……腹を痛めて産んでもろうたこの母に対して……何たる云い草……」


「また、太郎丸の行く末を考えるのは、父母である(それがし)と和佐が役目にてござる」

さらに、主税は母に向かってきっぱりと云い放った。

「確かに、我が本田家が代々御公儀より賜る『赦帳撰要方(しゃちょうせんようがた)』は内向きの御役目ではござる。
されども、太郎丸は武家の子にてござる。学者にさせる気なぞ毛頭ござらぬ。
ゆえに、学問の方を励ませつつも、同様に剣術(やっとう)の心得の方にも心血を注がせとうござる。
さすれば、母上におきましてはお立場をよく(かんが)み、無用な口なぞは挟むことなきよう」

ただ、当主である父・政五郎には伺いを立てて育てていくつもりだ。


すると、千賀は口元に袖を寄せて、いきなり畳の上に突っ伏した。

「この期に及んでも……あないな嫁の肩を持つとは……ッ」

あまりもの口惜しさに、肩をぶるぶると震えさせて啜り泣く。


厄介なことになった。

主税は全身からため息を吐きたい心持ちだ。

それでなくとも宿直(とのい)から帰ってきたばかりの身で、眠くて仕方がないと云うのに……

とうに敷かれている傍らの夜具を、つい恨めしげに見てしまう。


そのとき、座敷の外から声が聞こえた。

「……旦那さま」

和佐の声であった。

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