大江戸ガーディアンズ
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十六夜(いざよい)の月が出ていた昨夜のことである。

この松波家の家人が使う部屋では間違いなく一番立派な座敷の前に、兵馬は来た。

『父上、お呼びでござるか』

明障子(あかりしょうじ)の前で正座して、訪いを入れる。

『おう、(へぇ)れ』

短くとも威圧感(あふ)れるその凛とした声は、まさに人の上に立つ者の()れだ。


兵馬が(ふすま)をすーっと引くと、今し方の砕けた物云いとは裏腹に、床の間を背にし武士らしく姿勢を正して座する壮年の男の姿が目に入った。

本日の御役目を終えて南町の組屋敷に帰ってきた父・松波 多聞(たもん)は、すでに寛いだ着流し姿だった。

されども、その目の鋭さだけは決して緩むことはない。

江戸府中の一切を取り締まる、南町奉行所の年番方与力と云う重責を絶えず担っている所為(せい)であろう。


『……そいで、おめぇの手下の者たちはよ、
なにか『手掛かり』を掴めたってのかい』

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