大江戸ガーディアンズ
『ほう……おめぇもその策のことを知っておったか』
多聞がにやり、と笑った。
『だったら、話が早ぇな』
若い頃「浮世絵与力」と呼ばれていた者の不敵な笑みだ。
『南町からは、隠密廻りの杉山 新九郎を出す。
そいで、北町も同じく隠密廻りの島村 勘解由ってのを出してくっだろうと心算をしてたんだけどよ……』
『ずいぶん前に淡路屋で起きた捕物の際、「囮」になった同心でござるな。
たいそうな手柄であったと聞き及んてござる』
『へぇ、そこまで知っておったか……あぁ、そうか、あいつが調べやがったんだな』
多聞の目がすーっと細くなった。
御奉行から裁可が下った縁組に異を唱えることはなかったが、それでも姿かたちが妻に瓜二つの和佐をあっという間に掻っ攫っていった娘婿・本田 主税の名なぞ、できる限り口にしたくない。
『だが、奴ももう歳だからな』
どうやら、多聞は「北町の島村」を見知っているらしい。
『島村はおめぇのおっ母さんの幼馴染だ。
奴は内与力・上條家の次男として生まれて、長じてから島村の家に養子に入ったってのよ』
しかし、妻の「初恋の相手」だったことは口が裂けても息子には云わぬ。
「因縁」は此処にもあった。
『では、北町は代わりにだれを囮に出すのでござるか』