大江戸ガーディアンズ

『ほう……おめぇもその策のことを知っておったか』

多聞がにやり、と笑った。

『だったら、話が(はえ)ぇな』

若い頃「浮世絵与力」と呼ばれていた者の不敵な笑みだ。


南町(うち)からは、隠密廻りの杉山 新九郎を出す。
そいで、北町(むこう)も同じく隠密廻りの島村 勘解由(かげゆ)ってのを出してくっだろうと心算(こころづもり)をしてたんだけどよ……』

『ずいぶん前に淡路屋で起きた捕物の際、「囮」になった同心でござるな。
たいそうな手柄であったと聞き及んてござる』

『へぇ、そこまで知っておったか……あぁ、そうか、あいつ(・・・)が調べやがったんだな』

多聞の目がすーっと細くなった。

御奉行から裁可が下った縁組に異を唱えることはなかったが、それでも姿かたちが妻に瓜二つの和佐をあっという間に掻っ攫っていった娘婿・本田 主税(ちから)の名なぞ、できる限り口にしたくない。


『だが、奴ももう歳だからな』

どうやら、多聞は「北町の島村」を見知っているらしい。

『島村はおめぇのおっ()さんの幼馴染だ。
奴は内与力・上條家の次男として生まれて、長じてから島村の家に養子に入ったってのよ』

しかし、妻の「初恋の相手」だったことは口が裂けても息子には云わぬ。
「因縁」は此処(ここ)にもあった。


『では、北町は代わりにだれを囮に出すのでござるか』

< 99 / 316 >

この作品をシェア

pagetop