また、君と笑顔で会える日まで。
エピローグ
「ねぇ、先生。もうあたし死んじゃいたい」
放課後になり、扉を開けて教室の1番後ろの席に座っていた女子生徒に近づいていく。
彼女は1人で涙を流していた。
私はそっと彼女の元ヘ歩み寄り、背もたれを抱きしめるように後ろ向きに座った。
穂波ちゃんも昔、こうやって私の顔をのぞきこんだ。
『ははっ!そんなかたくなにいやがんないでよ!』
もうあれから10年が経つというのに、いまだに彼女の声をはっきりと思い出せる。
私は中学教師になった。穂波ちゃんに話した夢を実現させたのだ。
「辛いことがあったの?」
「うん……」
「そうなのね」
私は小さく頷いてから彼女に微笑んだ。
「昔ね、私も死にたいって思ったことが2度あったの」
「え……?」
彼女が涙でぐちゃぐちゃになった顔を持ち上げる。
「1度目はいじめに会った中二の頃。今のあなたぐらいの年齢の時ね」
「2度目は?」
「大切な親友が亡くなった時」
「え……」
「彼女を失って生きていく理由がわからなくなってしまったの」
「そうなんだ……?」
彼女の涙がピタリと止まる。
「でもね、考え直したの。彼女の分まで生きようって。そして繋いでいこうと思った。彼女の思いや言葉や考え方を。私が彼女に救ってもらった分、今度は私が誰かを救いたいと思ったの」
目の前の女子生徒はゴクリと唾を飲み込み、何かを迷っているのか視線を机に落として左右に揺らした。
「言いたくなかったら言わなくていいわ。無理強いはしないから」
「先生……」
私はそっと窓の外を見上げた。
この席は太陽の光が窓から差し込んで暖かい。
私は彼女にだまって寄り添うことにした。
──穂波ちゃん、元気ですか?
あれからもう10年が立ってしまいました。
私はそれなりに元気に暮らしているよ。
いまだに穂波ちゃんのことを考えて涙を流すこともあるんだっていったら穂波ちゃんにあきられてしまうかな。
でもね、生きているよ。必死に生きてる。
だって決めたから。穂波ちゃんの分までしっかり生きるって。
一日一日を大切に。
穂波ちゃんにこの想いは届いていますか?
窓から吹き込んできた柔らかな風が前髪を揺らした。
「先生、あのね──」
目の前の彼女が意を決したように私に視線を向ける。
私は彼女を見つめ返した。
彼女がぽつりぽつりと話し出す。彼女を救えるかどうかはわからない。
全てを理解してあげることもできないかもしれない。
それでも私はそばにいると決めた。
穂波ちゃんの想いは届いていく。繋がれていくから。
ずっと私が繋いでいく。
その優しさも、温かさも、強さも、全部私が繋いでいくよ。
ねぇ、穂波ちゃん。
今日はあなたの27回目の誕生日です。
そろそろ27本のろうそくを立てるのは難しくなってしまったよ。
仕方がないから今年は今までよりも更に大きなケーキを頼んだよ。
仕方がないから今年は今までよりも更に大きなケーキを頼んだよ。
毎年、必ず私があなたをお祝いするね。
たった1人の大切な親友が生まれた日。
生まれてきてくれてありがとう。
私と出会ってくれてありがとう。
私の特別な人なってくれてありがとう。
穂波ちゃん、27歳のお誕生日おめでとう。
だいすき ありがとう
この声があなたにとどきますように……。
そしていつか、また笑顔で
あなたと胸を張って会えますように。
END