また、君と笑顔で会える日まで。
望月穂波side


『たまにはトイレにこもりたくなる気分の時もあるよね』

 たまにじゃないくせに、たまになんて曖昧に誤魔化した自分が情けない。


 高校生になった今だってトイレにこもって泣くくせに。


 あたしは人前では絶対に涙は流さない。


 幸せが逃げて行っちゃうから。


 誰にも見られずになくならばきっと、幸せは逃げていかない。


 そんなマイルールを小3の時からひたすら守り続けている。


 それにしても。今日のあたしは軽率だった。『さきさき』なんていうあだ名をつけたのが良くなかった。

「穂波ってなんでこんな天馬さんにちょっかい出すわけ?」

 昼休みになり食堂に行きコンビニで買ったおにぎりを食べていると、志歩が唐突に尋ねた。

「ん?」
「だから、天馬さんのこと」

 肩より上の黒髪のボブヘア。シースルーバンクにしている長い前髪を指で整えながら志歩は不愉快げに尋ねた。

「あたし、ちょっかいだしてるようにみえる?」
「見える。あの子のこと、からかってんの?」
「まさか!そんなことしないって〜!ただ、気になるんだもん」
「なんで?あの子くらいじゃん。一年の時から思ってたんだよね。移動教室とかいつも一人だし」
「別に移動教室なんて一人でもいいじゃん。誰かと一緒にいかなきゃいけないルールなんてないしさ」
「そう?移動教室一人なのって、一番虚しくない?」

 スマホ画面に視線を落としたままこはねが続けていった。

「そういうもの?」
「そういうものだって」

 そうか。確かに女って一緒に連れ立ってトイレへ行くものだから、あたしが『トイレ行ってくる』
というと必ず二人もついてくる。


 二人がトイレに行く時、『いってらっしゃい』と手を振ると、二人は非難したような目を向ける。


 『穂波も行くんだって!』そう言って手を引っ張る。


 正直面倒くさい。


 トイレぐらい一人で行け!!と心の中で叫んでいるのは内緒だけど。


 それにしても。どうして二人がさきさきに対してこんなにも攻撃的なのかまったく理解できない。

「さきさき……じゃなくて、紗希、いい子だと思うよ」
「そう?あのことうちらじゃタイプ違うしら話合わなそうだもん。カースト最底って感じじゃん」
「そんなのあんまり考えたことないかも」

 二人は何故かスクールカーストというものをきにしている。


 誰が上で誰が下、そういうのもめんどくさいしわずらわしい。

「普通は気にするんだって」

 こはねが呆れたようにいう。

「普通って何?」
「穂波、あたしたちのことおちょくってんの?頭いいんだしそれぐらい言わなくてもわかるでしょ?」

 志歩が吐き捨てるようにいう。


 わからないから聞いているのに。


 そこまでスクールカーストにこだわる必要なんてないのにどうしてみんかこだわるんだろう。


 誰が上とか誰がしたとかそんなんどうだっていいじゃん。

「もしうちらのグループに天馬紗希入れようとか考えてんだとしたらマジ勘弁だからね」
 
 こはねはスマホ画面を操作したままけん制するようにハッキリとした口調で言った。



< 6 / 26 >

この作品をシェア

pagetop