世界で一番大嫌いな君へ
「うん、ありがとう!」

凌はましろからクッキーを受け取り、口に入れる。バターの香りがふわりと漂い、くどすきない甘さが口の中に広がる。このクッキーを焼いてくれたのは間違いなく母だ。だが、ましろと食べるクッキーはいつも特別に思えた。



幼い頃どれだけ仲が良くても、学年が上がるごとに男女の幼なじみはだんだんと距離ができてしまうと思う。だが、凌とましろは全くそんなことはなく、中学生になっても仲が良かった。部活も同じ合唱部に入部したほどだ。

「ましろ、ソロパートすることになったんだろ?おめでとう」

「凌ちゃん、ありがとう。緊張するけど、たくさん練習して素敵な歌を届けたいな」

部活が終わり、二人で並んで帰る。パッと見れば付き合っているように見えるだろう。だが、実際は友達以上恋人未満の関係だ。

部活のこと、授業のこと、たくさん話していく。中学生になってさらに大人びたましろの横顔を見るたびに、凌は胸が何度も苦しくなる。今でもこの気持ちは生きているのだ。
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