サイコな本部長の偏愛事情(加筆修正中)

『失明の恐れもある中、その女性を愛するようになりました。いつ失明してもおかしくない状況で、彼は彼女の為に身を引く決断を致しました。けれど、どうしても彼女のことが諦めきれず、彼女の笑顔を生涯隣で見続ける為に……。二年前に失明のリスクも承知の上で難しい手術に挑みました』

機長のアナウンスに、乗客が『素敵~』と騒ぎ出す。

知らない人かもしれない。
全くの別人だと思うけど。
それでも、境遇があまりにも酷似していて……。
気付いたら涙が頬を伝っていた。

『その彼が、本日私の相棒でもあります、副操縦士です。この羽田発香港行は、操縦士の彼にとって初めて国際線を運航した路線で、当便が副操縦士としての彼の復帰フライト第一便となります。友人として、また操縦士仲間として、彼の再出発を心から祝福したいと思います』

機内は拍手の渦に包まれた。
どこからともなく励ます声が聞こえ、あちこちから歓声が上がる。

『まもなく、眼下に百万ドルの夜景が広がる予定です。人生に一度は味わいたい感動の絶景。その絶景にふさわしい逸話として、皆様の想い出の一ページに添えて頂けたら嬉しく存じます。ご拝聴有難うございました。Good evening everyone,this is your captain spearking from the flight deck.(訳:ご搭乗の皆様、こんばんは。当便機長でございます)……ー…』

涙が止まらない。
胸の奥にそっとしまっておいた感情が一気に溢れ出した。

今でも昨日のことのように覚えている。
彼の歩く姿を。
いつでもお客様のことが最優先で、優しく接客する姿を。
私の頭に手を乗せ、不敵に微笑む姿を。

そして、少し低めで優しい声音で『彩葉』と呼ぶ姿を。

たった半年しか一緒に過ごさなかったのに、それでもちゃんと覚えている。
体に隅々にまで刻まれた彼との思い出が。

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