サイコな本部長の偏愛事情(加筆修正中)
機長の英語アナウンスが終わり、鞄からハンカチを取り出し涙を拭った、次の瞬間。
『先ほど、機長より紹介に預かりました、副操縦士の財前です』
「えっ」
思わず声が出てしまった。
だって、やっぱり私の思い過ごしではないんだと……。
『人生において、誰でも一度や二度は挫折を味わい、辛い日々から逃げたくなるものです。ですが、諦めずに努力し続けることで、必ず別の扉が開きます。同じ場所に戻れればベストですが、例え違う世界の扉だったとしても、決してマイナスになることはありません。人生に悩んだ時、日常の生活にスパイスが欲しい時、大切な人と素敵な時間を過ごしたい時。そんなワンランク上の世界を目指したくなりましたら、是非、当ASJをご利用頂ければと存じます。皆様のご搭乗を社員一同、心よりお待ちしております。狭き機内ではございますが、残り時間、ごゆっくりとお寛ぎ下さい。本日もASJをご利用頂きまして、誠に有難うございます』
二年ぶりに聞いた声。
相変わらず、痺れるような声音に思わず嬉しくなる。
彼の流暢な英語アナウンスを聞きながらハンカチで口元を押さえ、込み上げて来る感情を必死に抑える。
そうでもしなきゃ、嗚咽しながら泣いてしまいそうだ。
隣の乗客に悟られないように機窓の外に視線を向けた、その時。
「環様」
名前を呼ばれた。
振り返りたくないけど無視は出来ないから、涙腺崩壊してる顔で仕方なく振り返る。
「副操縦士の財前よりこちらを預かっております」
「え?」
営業スマイルなのか分からないけど、彼の元彼女のCAさんはにっこりと笑顔を向ける。
差し出されたのは、小さな封筒。
彼女がお辞儀をして踵を返したのを見届け、封筒を開けた。
『前方ドアの所で』