サイコな本部長の偏愛事情(加筆修正中)
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高級セダン車の助手席に座った環。
財前には軽くあしらうために口走ったけれど、内心は心臓が早鐘を打っている。
男性が運転する車で二人きりになったのは二か月ぶりだ。
遡ること二か月前。
七年付き合った恋人と別れ、それ以来、避けて来た。
心配した友達が、男性を何人も紹介してくれたが、暫く恋愛は遠慮したくて。
それとなく断り続けていた。
別に恋愛に発展するしないの問題ではなく、何かの度に元彼を思い出してしまいそうで。
環は東京白星会医科大学病院の胸部外科医として勤務していた。
医学部時代から付き合っていた彼は同じ病院に脳外科医として勤務していて、同じ外科医を志す者として学生時代から仲が良かった。
一年前までは。
理事の娘がイギリス留学から帰国し、結婚相手として彼に白羽の矢が立ったのだ。
七年という長い年月で築き上げた信頼関係が壊れるのも一瞬で。
将来を約束されたポストをちらつかせ、懐柔したのだ。
毎日のように手術に追われ、納得のいくまで話し合えたかと言えばNOだが、それでも出された結論の答えに自分との未来が無いことを知った環は、移動願を出したのだ。
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「そう言えば、昼間の妊婦さん、どうなりましたか?」
高速道路を走行中、無言の重圧に耐えきれず、環は口を開いた。
「適切な処置のお陰で、早産にならずに済んだそうです」
「それは良かったぁ」
本来八か月なら出産しても何とか生命は維持出来るラインだが、多胎児となればリスクが高い。
母体と胎児の生命の危険が大幅に増すからだ。