サイコな本部長の偏愛事情(加筆修正中)
点滴が終わり、捲ったシャツを元に戻していると。
「良かったらどうぞ」
「あ、……すみません」
目の前にホット珈琲が差し出された。
受け取ってしまった。
突き返すのは失礼になるよな。
白糸のように揺らめく湯気を視線で追いながら、香りだけは楽しめるが。
どうしたものか。
珈琲は好きだが、どんな珈琲でも飲めるわけではなく……。
「お嫌いですか?あっ、夜飲んだら眠れなくなっちゃいますよね?ごめんなさいねっ」
口を付けないから気を悪くしたかもしれない。
彼女は俺の手からカップを取り上げた。
飲まなくて済んだのは有り難いが、申し訳なさの方が勝ったというか……。
「もうすぐ終わりますよね?」
「はい」
「少しお時間貰えますか?」
「え?」
「点滴と珈琲の御礼します」
「え、……お気になさらず」
「そう言わずに」
***
「風が気持ちいい~~」
二十三時十分。
本来は一人で気分転換する予定で開けておいた展望デッキ。
今日は特別仕様でお客様がいる。
「こんな時間に来たこと無いですっ」
「いつもは二十二時で閉まるんです、ここ」
「え?………大丈夫なんですか?」
「はい」
両手を広げて遮るものが無い展望デッキに吹き抜ける風を体全身で感じているようで。
俺は腕組し目を閉じて、肌を撫でる風を感じる。
第三ターミナルだから観れる光景。
国内線と違い、国際線は深夜便もあるため、駐機場を照らす明かりも幻想的で。
ランウェイに点在する明かりにも懐かしさを覚える。
操縦席から見てた光景と違う角度で同じものを見ている。
それが、声にならないほど痛みを帯びている、今でも。