サイコな本部長の偏愛事情(加筆修正中)
「先日、車内で話したと思うんですけど」
「………はい」
「私、二か月前に七年交際した彼と別れたんです」
フェンス間際で両手を広げていた彼女は、俺の方に勢いよく振り向いた。
「今はまだ完全に吹っ切れてないんですけどね。でもこの景色観たら、リセット出来そうな気がするんです」
展望デッキを照らす照明が彼女を明るく照らす。
そんな彼女を無言で見つめていると。
「底知れぬ暗闇にも、きっとどこかに明かりがあるはずだから。今はその明かりを探す旅を始めようと思います」
風に靡く髪に手を添え、彼女はにっこりと微笑んだ。
俺も彼女のようにリセット出来るだろうか。
職種を変え、生活リズムが変われど、毎日朝から晩まで死ぬほど好きだった飛行機を目にして。
操縦するのではなく、地上から見ているだけで満足出来るだろうか。
今はまだ完全に吹っ切れていない。
悔しくて夜も寝られず、何が原因なのか、そればかりを気にしてしまって。
彼女みたいに違う世界を探せるだろうか。
いや、探すべきなんだろう。
もう、………あの場所へは戻れないのだから。
「家まで送ります」
「え?……いいですよっ!まだ終電間に合いますし」
「自分ももう上がりますので」
「………いいんですか?」
「はい」
こんな風に自分以外の人間に、自身と向き合う方法を教わるとは思ってもみなくて。
いい歳した大人が、夜景一つでこうも簡単に気持ちがリセット出来るとは。
不思議な気分になる。
「またこの景色観たくなったら、遠慮なくどうぞ」
「えええ~っ、いいんですか?!」
「はい、特別に許可します。けど、秘密ですよ?」
「もっちろんですっ!あ、……管制塔は入れませんよね?」
「管制塔?」
「はい、………一度でいいから入ってみたくて」
「では、近いうちにご案内します」
「ホントですかぁ~?!」
「はい」