サイコな本部長の偏愛事情（加筆修正中）

「背伸びしないと取れないぞ？」
「………あっ、はいっ」

スタッフは言われるがままに背伸びをするが、身長百八十六センチある財前が高々と手を上げていたら簡単には取れるものじゃない。
五センチのパンプスを履いているとはいえ、軽くジャンプしないと取れそうにない。
財前はほんの少し前かがみになったかと思った、次の瞬間。
モデルスタッフの耳元に呟いた。

「それが限界か？」
「ッ？！」

普段とは違う優しい眼差しと少し低めの甘美な声色に、モデルスタッフの頬はみるみるうちに赤く染まる。
財前の熱い視線を浴びながら、スタッフは今一度目一杯背伸びをした、その時。
財前の右手がスタッフの背中をそっと支えると、辺りにいるスタッフたちがどよめき出す。
中には黄色い声とも思えるような悲鳴に似た声を発する者まで。

「す、すみません、取れそうにないですっ」

財前の手が背中に添えられ、スタッフは間近にある財前の顔に見惚れている。
そんなスタッフの心の内などお構いなしの財前は、背中に添えた手を肩に置く。

「ここは？……窮屈じゃないか？」
「え？………あ、はい」
「じゃあ、………ここは？」

今度は脇腹に近い部分を軽くタッチして……。

「……大丈夫ですっ」
「そうか。じゃあ、……ここはどうだ？」

少し節高の長い指先は手首をとらえた。

「少し当たりますが、きつくは無いです」
「ん、……もういいぞ」

実際の現場で使用する時を想定しての可動域検査を終え、多少の問題点が見つかり、財前は岩淵に改善点を指示する。
完全に仕事モードの財前だが、目の前のモデルスタッフのハートを射抜いたのは言うまでもない。