サイコな本部長の偏愛事情(加筆修正中)

三百六十度の大パノラマ。
今が深夜ということもあり、絶景とは言い難いが、夜は夜の良さがある。

(財前さんっ、凄すぎますっ)
(そんなひそひそ話じゃなくても大丈夫だよ)
(えっ?……ご迷惑になっちゃいますから)
(通信してる時だけ控えれば大丈夫だよ)

彼女は俺の袖を引っ張り、気を遣って小声で話しかけて来るものだから、ついつい俺まで小声になる。

「寺脇さん、モニター見せてもいいですか?」
「はい、大丈夫ですよ。どうぞ」
「ほら、いいって」

俺の袖を掴む彼女に声を掛けると、驚愕した表情で俺を見上げている。

「次の便は?」
「二十三時五十五分に香港行とコナ行があります。到着予定は暫く無いので、直近だとその二便ですね」
「だって」
「………」
「フフフッ」

口をポカンと開けたまま、俺らの会話を聞いている彼女。
あまりに面白過ぎて、思わず吹き出してしまった。

「間抜け面だぞ」
「っ!!……失礼なっ」

現在、二十三時四十分。
日中と違い、深夜便は便数も少ないため、慌ただしさはないが、独特の雰囲気がある。

俺は彼女の背中に手を添え、管制官の傍までエスコートする。

「こんばんは~。財前さんが来るって聞いてお化粧し直したのに、恋人同伴だなんて~」
「……たまにはサプライズも必要かと思いまして。息子さん、甲子園準決勝、残念でしたね」
「え、観てくれました?準決勝まで行けたから十分ですけどね」

管制官の山口 和代、五十三歳と他愛ない会話をすると、横にいる彼女から再び袖を引かれた。

(恋人って勘違いされてますよ?)
(冗談だから気にするな)
(え?)

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